大判例

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広島高等裁判所 平成元年(ネ)336号 判決

控訴人

三木數三

右訴訟代理人弁護士

恵木尚

下中奈美

被控訴人

三木冨貴美

三木博史

三木史子

右三名訴訟代理人弁護士

中村勝次

中村信介

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの予備的請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

次に付加、訂正する外は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決三枚目表七行目から同八行目にかけての「訴外三木諭嘉(以下、訴外論嘉という。)」を「訴外三木諭嘉(以下、訴外諭嘉という。)」と改め、以下、原判決事実摘示中の「訴外論嘉」とあるのを、いずれも「訴外諭嘉」と改める。

同三枚目裏八行目の「確認」の次に「及び右通行地役権の設定登記手続」を加える。

同四枚目表四行目の「二一〇条一項」の次に「ないしは同二一三条二項」を加える。

同四枚目裏二行目の「当時」の次に「本件二土地から」を加える。

(当審における控訴人の主張)

一  訴外康子から訴外諭嘉への本件二土地の譲渡は、贈与であり、実質上の遺産分割(共有物分割)ではない。このことは、訴外諭嘉は本件二土地の元の所有者である亡三木嘉次郎及び亡三木利登に対しては何らの相続権がないこと、被控訴人らが訴外康子に対し本件二土地の所有権移転登記を求めた訴訟において所有権取得原因を贈与と主張していることからも明らかである。

したがって、本件では、民法二一三条二項の適用を受け、同二一〇条一項の要件を備えたとしても、被控訴人らは訴外康子の所有地である本件三土地のみを通行し得るものであって、控訴人に対し囲繞地通行権を主張できない。

二  本件二土地は、里道に接しており、袋地には該当しない。

三  仮に、本件二土地が袋地に該当するとしても、囲繞地のため損害が最も少なきものを選ぶ(民法二一一条一項)という観点から判断するならば、本件三土地の里道と隣接した場所に、里道幅をも考慮に入れて通行場所を設定すべきである。

四  本件囲繞地通行権の範囲を決するうえで、本件一土地と本件二土地の境界を確定する必要があり、右両土地の境界が確定されていない以上、本件訴えは不適法である。

但し、本件係争地が、本件一土地の範囲内にあることは認める。

(右主張に対し被控訴人らの反論)

本件囲繞地通行権の範囲を特定するために、本件一土地と本件二土地の境界が特定されることは、その論理的前提にはならない。

第三 証拠関係〈省略〉

理由

一原審は、被控訴人らの本訴請求について、主位的請求(通行地役権確認及び同地役権設定登記手続請求)を棄却し、予備的請求(囲繞地通行権確認請求)を認容しているのであるが、この場合、控訴審の審判の範囲は不服申立の限度に限られるから、当審では、主位的請求に対する原審の判断の当否は審判の対象とならず、予備的請求に対する原審の判断の当否のみ審判の対象となるものと解される。

そこで、検討するに、当裁判所も、被控訴人らの本訴請求のうちの予備的請求については理由があると判断するが、その理由は、次に付加、訂正、削除する外は、原判決の理由説示(原判決九枚目表五行目から同一五枚目表一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。

原判決九枚目表八行目から同九行目にかけての「第一の三で認定したとおりである」を「原判決の理由の第一の三(原判決七枚目表五行目から同八枚目表九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(但し、同七枚目表六行目の「一、二」の次に「第一〇号証の一、二、乙第二、三号証」を加え、同七行目の「原告三木冨貴美」から同九行目の「甲」まで及び同九行目の「被告本人尋問の結果」から同一〇行目の「第三号証、」までを、いずれも削除し、同七枚目表末行から同裏一行目にかけての「本件一ないし三の各土地は、」の次に「地続きとなった一団の土地であるが、」を、同八枚目表八行目の「許諾したこと、」の次に「訴外諭嘉は、昭和五九年二月八日死亡し、被控訴人らが相続により本件二土地の所有権者となったこと、」を、それぞれ加える。)。

同九枚目表一〇行目冒頭から同一〇枚目裏二行目末尾までを、次のとおり改める。

「二 そこで、被控訴人らが本件係争地につき民法二一〇条一項ないしは同二一三条二項に基づく囲繞地通行権を有するか否かについて、判断する。

民法二一三条は、共有地の分割または土地の譲渡という任意行為により袋地が生じた場合においては、その関係当事者間では袋地の発生は当然予期すべきであり、この場合は、土地の分割または譲渡と関係のない周囲の第三者の土地には迷惑をかけないで関係者の内部問題として処理するのが当然であるとの理由から、囲繞地通行権は当該分割または譲渡の対象となった元の土地についてのみ発生し、かつ、償金の支払を要しないことを明らかにした規定であると解される。

右規定の趣旨に鑑みると、民法二一三条二項は、土地の所有者がその土地の一部を譲渡し残余部分をなお保留する場合に生ずる袋地についてのみ適用ありと解すべきではなく、土地の所有者が一筆の土地を分筆のうえ、同時にその全部を数人に譲渡し、これによって袋地を生じた場合においても、袋地の取得者は、右分筆前一筆であった残余の土地について囲繞地通行権を有するものと解すべきであり(最高裁判所第三小法廷昭和三七年一〇月三〇日判決民集一六巻一〇号二一八二頁参照)、右の理は、単に一筆の土地の譲渡に限らず、同一人の所有に属する数筆の土地についても、当該土地が地続きで一団の土地となっている限りは、別異に解する理由はないから、残余の土地について囲繞地通行権が発生するものと解される。

これを本件についてみるに、前認定のとおり、本件一ないし三の土地は、地続きとなった一団の土地であり、訴外康子が家督相続により右各土地の所有者となっていたところ、同時に、本件一土地は控訴人に、本件二土地は被控訴人らの被相続人の訴外諭嘉に、それぞれ譲渡されたものであるから、その結果、本件二の土地が袋地になったと認められる場合は、本件二の土地の所有者(共有者)である被控訴人らは、民法二一三条二項に基づき、残余地である本件一または本件三の土地について囲繞地通行権を有するというべきである。控訴人は、右残余地は、譲渡人である訴外康子の所有する本件三土地のみを指す旨主張するが、前記全部同時譲渡の場合に照らして考えると、右残余地とは、譲渡人の所有する土地に限られるものではなく、袋地となった土地を除く残余地全体を指すものと解するのが相当である。」

同一一枚目表一行目の「東側隅」を「北東隅」と、同末行の「通ぜらる」を「通ぜざる」と、それぞれ改める。

同一一枚目裏七行目の「第一の三で」を「さきに」と改める。

同一二枚目表七行目の「土地部分」を「本件係争地」と改める。

同一二枚目裏三行目の「ところで、」から同七行目末尾までを、次のとおり改める。

「ところで、囲繞地通行権の範囲、すなわち、囲繞地通行権による通行の場所と方法は、通行権を有する者のために必要にして囲繞地のために最も損害の少ないものを選ぶべきである(民法二一一条一項)が、その判断基準としては、袋地と囲繞地の地形、位置状況に加え、袋地が生じるに至った経緯、従前の通路及び通行状況、その他諸般の事情を考慮したうえ、社会通念に照らし、具体的な事例に応じて決定すべきである。そして、袋地が生じるに至る過程において、袋地と囲繞地の各所有者間に、囲繞地通行権に関しての協議や合意がなされている場合は、その経過や内容が右囲繞地通行権の範囲の決定に当たり斟酌されるべきは当然である。

これを、本件二土地について、以下、検討する。」

同一三枚目表七行目の「本件係争地」の次に「とほぼ一致する土地部分」を加え、同八行目の「受忍」を「承諾」と改め、同行の「(な」から同一三枚目裏三行目の「考える。)」までを削除する。

同一四枚目表六行目の「さらに、」から同一〇行目末尾までを削除する。

同一五枚目表四行目の「2.5メートル」の前に「幅員を」を加える。

同一五枚目表五行目の次に、改行して次のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件囲繞地通行権の範囲を決するうえで、本件一土地と本件二土地の境界を確定する必要があり、右両土地の境界が確定されていない以上、本件訴えは不適法である旨主張するが、控訴人において、本件係争地が、本件一土地の範囲内にあることは認めているところであって、右主張は失当である。」

同一五枚目表六行目の「してみると、」から同八行目末尾までを次のとおり改める。

「以上を総合すると、本件二土地の所有者(共有者)である被控訴人らは、控訴人の所有する本件一土地のうち幅員2.5メートルの本件係争地の土地部分について、民法二一三条二項に基づく囲繞地通行権を有するものと認めるのが相当である。」

同一五枚目表一〇行目の「あらそっている」を「争っている」と改める。

二以上の次第で、被控訴人らの本訴請求のうちの予備的請求は理由があるから認容すべきであり、これと結論を同じくする原判決は結局正当というべきである。

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山田忠治 裁判官佐藤武彦 裁判官難波孝一)

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